トレーニングの考え方
トレーニングは、必ず動作と関連付けて行う必要があります。ただ単に「~筋のトレーニング」と名前の付いたトレーニングを、実際に運動の中でどのように使われているのか分からない状態で行っても、間違った使い方を覚えてしまい、逆効果となってしまう可能性が高いのです。
以下に紹介するトレーニングも、そのトレーニングを行うことで動作の中でどう生かされるかをイメージしながら行うことが大切ですので、必ず先に動作についての理解を深めてから行っていただければと思います。
土台のトレーニング
人間で言う「土台」とは、足裏や足首を指します。トレーニングの中で足裏の筋肉を鍛えたり意識したりすることは、一般的に浸透していることではありません。しかし、一番下にあるということは、その上に立っている体全体が足裏のコンディションに左右されてしまうのです。
例えば足裏のアーチ(土ふまず)が潰れてしまうと、正常な状態と比べ内側のくるぶしの位置が下にさがってしまいます。すると膝が内側に捻じれるようにして入り、前に出やすくなってしまいます。膝が内側に入り、前に出た状態は骨盤の後傾を誘発します。骨盤が後傾すると、前に力を伝えにくくなります。つまり、ピッチングにおいてもバッティングにおいても、パワーロスが生じるだけでなくケガの原因にもなってしまいます。
これらを改善する為には、足首の縦の動き、そして横の動きを意識して行うことで、アーチ周辺の筋肉を目覚めさせてあげることが大切なのです。
股関節のトレーニング
股関節を鍛えることで運動パフォーマンスが上がるということは、徐々に認知されるようになってきました。なぜ股関節が大切で、実際に股関節がどのように使われているかということを考えることで、さらに良い動作を身につけることが可能です。
逆に股関節を使わない動作とは、膝を中心に使った動作です。運動とは大半が重心を移動させることが非常に大切です。股関節は極めて人間の重心に近い部分にあり、地面に足がついた状態で股関節を動かすと、大きなストライドで重心を移動させることが可能です。膝を中心に使ってしまうと、重心の移動を大きく取ることが出来ず、パワー、スピード共に得ることが出来なくなってしまいます。
ピッチングで言えば、重心移動時の軸足の動き。そしてステップ足の動き。これらを股関節を中心に行うことによって、スピーディーな重心移動と、ステップによる上体へのパワーの伝達がスムーズに行えるようになります。特にお尻やもも裏などの筋肉を上手に使うことによって、重心移動やステップ動作を改善することが出来るのです。
腹、重心のトレーニング
運動とは、物理学で言えば人間の「変形」です。つまり、筋肉を使って体の形を変えることで、重心の移動や末端部分の加速などを行っています。
変形を素早く行うためには、重心を中心とした運動を行わなければなりません。ピッチング、バッティング共に、動作の中心がお腹、骨盤、股関節など、重心に近い部分であることが大切なのです。
手首や肘などの、体の重心から離れた部分を中心とした動作を行うと、スピードもパワーも生まれません。
重心付近のトレーニングを行うことで、動作の中心を重心に近づけることが出来ます。つまりお腹などのトレーニングを行い、全体のバランスとしてお腹が強い状態であれば、自然にお腹を使った良い動作が生まれます。
また、ボールを加速させるときには、逆にボールに押し返される力も働きます。その力にも負けないように下半身の力を伝えるためには、内臓などで比較的柔らかいお腹を、筋肉でがっちり固めておく必要があるのです。球速を上げる、打球を飛ばす時にはお腹の力がとても大切なのです。
骨盤、背中をつなぐトレーニング
ピッチング、バッティングにおいて肝になる部分が骨盤です。骨盤の向きが間違った方向だと、正しく力を前に伝えることが出来ません。大切なのは、骨盤の前傾(骨盤が立った状態)を維持することです。
骨盤の前傾を維持する為には、背筋(脊柱起立筋)や股関節(大腰筋)の強さ、もも裏(ハムストリング)やお尻(殿筋)の柔軟性が必要です。これらをトレーニングやコンディショニングによって向上させ、骨盤の前傾が維持出来る体作りを行うことで、スポーツ動作が非常にスムーズでパワフルなものになります。
骨盤の前傾でもっとも身近なもので言うと、相撲やアメフトのスタート位置です。股を割り、背骨を伸ばした状態で見事に骨盤を前傾させています。最も前にパワーを発揮しやすいポジションとして参考にしたいところです。
肩甲骨のトレーニング
肩甲骨は、正確に言うと体にはついていません。浮いている骨をただ筋肉でつないでいるだけなのです。それだけ自由度が高い骨なのですが、逆に言うと安定させるのも困難な骨なのです。例えば腕立て伏せのような状態では、肩甲骨をしっかり体につけていられる筋力が無ければ、地面を押すことが出来ないため、どれだけ腕の力があっても体を支えることが出来ません。
肩甲骨周りの筋肉(前鋸筋、菱形筋、僧帽筋など)が発達していると、それほど腕や胸、背中などのアウターマッスル(表面の筋肉)に頼ることなく、疲れにくい体の使い方が可能になります。
ピッチングで言えばリリース、バッティングで言えばインパクトのときに肩甲骨を押しだすような使い方をしますが、ここで肩甲骨周りの筋肉が使えないと、背骨を回旋させる様な動作が生まれてしまいます。すると力はどんどん後ろへ逃げてしまい、結局パワーロスしてしまうのです。